彦根 移動図書館・たちばな号
彦根市立図書館(尾末町)の移動図書館「たちばな号」が運用開始から60年を迎えた。交通手段が限られる時代に多くの人に図書館を利用してもらおうと、県内初の移動図書館として1965年8月に誕生。現在の車両は6代目で、60年間の総利用者は約63万人に上る。市立図書館は「たちばな号を通じてできたコミュニティーを大切にして、これからも運行を続けたい」としている。(清家俊生)
63万人利用 高齢者に好評 「趣味広がった」
たちばな号は、市民から愛称を募り、彦根藩井伊家の家紋の木から名付けられた。初代は「動く図書館」と書かれたボックス型の車両で、約1500冊の本を積んで市内を巡回した。
その後、69年7月、78年6月、85年10月、96年10月に車両を更新。5代目は終了後の2014年に南アフリカに寄贈され、現地の図書室がない小中学校の児童生徒や教員向けの移動図書館として活用された。
6代目は26人乗りのマイクロバスを改造したもので、12年4月から運行。車体にはひこにゃんと彦根城のイラストが描かれており、車内の本棚には主に子ども向けの本、外側の本棚には小説やエッセーなどが並ぶ。積載する本は初代の2倍近い約3000冊で、公民館や神社、コンビニ店の駐車場など51か所ある巡回先の中から、1日に2~4か所立ち寄っている。24年度は延べ3619人が利用し、2万2576冊を貸し出した。
移動図書館は、特に交通手段のない高齢者から人気だ。今月2日、小野こまち会館前(小野町)に車両が到着すると、近隣住民が次々と訪れた。
ガーデニングの入門書などを返却しに来た女性(75)は、「手芸や料理など、ちょっとやってみようと思い立ったらここで本を借りている。移動図書館のおかげで趣味の幅が広がった」と笑顔を見せた。数か月前から利用しているという男性(68)はこの日、時代物の小説を2冊借りた。「楽しみが増えた。これからも利用したい」と話した。
市立図書館によると、移動図書館は利用者の声が反映しやすいといい、担当者は「人気作家の作品が読みたいといったリクエストにできるだけ応えるよう心がけている」と明かす。久保田雄介館長は「市内全域に図書館サービスを届けようと始まった。本を心待ちにしている市民のために、これからも運行していきたい」としている。