病気や認知症などを抱える家族を世話するケアラー(介護者)の横のつながりを広げ孤立化を防ごうと、支援団体や当事者をつなぐネットワーク「大津ケアラーネット」が11月に設立され、大津市内でキックオフイベントが開かれた。介護者支援をめぐっては大津市議会でも条例制定に向けた動きがあり、同ネットは「ケアラーの小さな声や要望を拾い上げていく機会になれば」と期待している。(角川哲朗)

近年、少子高齢化や核家族化の進行など社会情勢の変化を受け、家事や介護を日常的に担う若年層の「ヤングケアラー」の問題が顕在化しているほか、仕事をしながらケアを担う「ワーキングケアラー」、高齢者が自身の親などを世話する「老老介護」など様々なケースが目立つ。ただ、横のつながりが薄くそれぞれが孤立しがちといった課題があることから、当事者同士の交流を促し知見を深めようと立命館大産業社会学部の斎藤真緒教授(家族社会学)が設立を呼びかけ実現した。
斎藤教授は若者や男性のケアラーなどを研究しており、11月7日に大津市の旧大津公会堂で設立後初めて参加者が一堂に集まり、ヤングケアラーや母子家庭の支援者のほか、障害児や不登校児のいる保護者など約20人が参加。オンラインでも約10人が参加し、それぞれの思いや状況を話し合った。
イベントでは、斎藤教授が携わった京都市の事例などを説明したあと、母子家庭支援団体や不登校親の会の関係者らがそれぞれの活動内容などを報告した。不登校の子どもを持つ親を支援する団体の関係者は「子どもの相手ばかりで息が詰まりそう」という声があることを紹介。子どもだけでなく自分の親の介護との「ダブルケア」や保護者自身の心身の病気などが重なっているケースもあるとして「安心して話や相談ができることや、未来に希望が持てることなどを求めたい」と訴えた。
その後、参加者らは四つのグループに分かれ、それぞれの団体が抱えている課題や要望などについて意見交換し、交流を図った。
斎藤教授によると、ケアラーの支援条例は2020年の埼玉県での事例以降、現在33の自治体で制定されているが、関西圏では奈良県大和郡山市と京都市にとどまるという。大津市議会では、ケアラーへの支援を推進する条例の制定を目標に議員間討議や具体的な調査・研究を行う超党派の「政策検討会議」を今年6月に設置しており、今後、当事者とも意見交換を行い、様々なケアラーを対象とした包括的な条例案の来年度中の提出を目指すとしている。
同ネットでは今後、定期的に交流会を開いていく予定で、斎藤教授は「まずはメンバー同士の交流を図り、横のつながりを広げるとともに、ケアラーが大切にされる社会に向けて議論を深めていければ」と話した。