八商 鮮やか総力戦最終回 3連打からドラマ

20110813-625958-1-N.jpg  夏の全国高校野球大会8日目の13日、2回戦に進んだ八幡商は第2試合で帝京(東東京)と対戦した。終盤まで攻めあぐねた八幡商だが、九回の満塁弾で逆転し、優勝候補の一角、帝京を破り、ベスト16に名乗りを上げた。八幡商の夏の大会2勝は初めて。3回戦は大会11日目の第2試合で作新学院(栃木)と対戦する。

 八幡商は主戦の吉中佑志が先発。外角を中心にコースを突く投球で好調な立ち上がりを見せた。しかし三回、帝京の主砲・松本剛に本塁打を浴びて2点を失うと、五回にも連打などで1点を奪われた。その後は尻上がりに調子を上げ、8回を投げ抜き、味方の援護を待った。

 打線は帝京の先発・渡辺隆太郎の、狙い球を絞らせない多彩な投球の前につながりを欠いたほか、バントのミスなどもあり沈黙。八回まで二塁を踏めなかった。

 3点差で迎えた最終回の攻撃。一死で打順が先頭に帰り、高森健太、竹井友希、白石智英の3連打で満塁の好機を演出。坪田啓希の内野ゴロが敵失を誘って1点を返し、なおも満塁から遠藤和哉が右翼ポール際に放った本塁打で一気に逆転に成功した。粘りを見せた八幡商ナインに、スタンド全体から鳴りやまない拍手が送られた。

 池川準人監督は「攻めも守りも総力戦だった。打ってつなぐしかない場面でつないでくれた。遠藤はよく打ってくれた」と試合を振り返った。

 

 <控え捕手 反撃呼び込む>

20110813-625983-1-N.jpg 初舞台は、思わぬ場面で巡ってきた。吉田大輝は、八回裏から捕手に入るよう、池川準人監督に告げられた。直前の攻撃で代打に立ったが、大歓声に体がすくみ、三振したばかり。面食らったが、正捕手の日紫喜雄介に「最高の舞台だ。思い切りいけ」と発破をかけられ、あわててマスクをかぶった。

 主戦の吉中佑志は、序盤に帝京の4番松本剛に2点本塁打を浴びたが、何とか3失点でしのいでいた。「これ以上点はやれない。慎重にいこう」。スタンドや仲間を見やり、腹をくくってミットを構えた。歓声は耳に入らなくなった。

 先頭は前打席で適時打を放った木下貴晶。吉田は冷静だった。構えを観察し「直球狙いだ」「このコースなら打てない」と分析。右足を横に伸ばして目いっぱい低く構え、直球を主体に、吉中の武器のカットボールやスライダーを織り交ぜ、タイミングを外した。

 木下を右飛に打ち取ると後続2人をわずか4球で仕留めた。投手を軸に、守備からリズムを作る。大事な場面で八幡商らしいプレーを見せ、最後の攻撃に望みをつないだ。

 バッテリーの粘りに応えるかのように、八回まで2安打の打線が奮起し、まさかの逆転満塁本塁打が飛び出した。

 吉中は「吉田を信じて投げた。あそこで打ち取れたことが最終回の攻撃につながった」と振り返り、池川監督も「八回を3人で抑え、リズムを作ってくれたのは大きかった」とたたえた。

 九回裏。吉中の後を託された2年生投手、真野聖也は、吉田のリードで二死までこぎ着けた。

 「あと一人、あと一人」。大歓声が響く中、帝京の阿部健太郎の打球は吉田の頭上高くに上がった。吉田は抱え込むように、大切にウイニングボールをつかんだ。(矢野彰)

2011年8月14日  読売新聞)